その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
私の告白を受けて、課長は一瞬目を丸くさせる。
でも、予想していたことでもあったのか、動揺は大したことなく、すぐにいつものすました表情に戻り、


「とりあえず中に入れろ」


と言い、私の返事を聞くこともなく部屋の中へと入っていく。


「ちょっと、勝手に入らないで……」

「お前から俺への熱い告白を、アパートの他の住人にも聞かれてもいいと言うなら俺は玄関先でも構わないが」


そう言われてしまえば、ぐっ……と言葉に詰まる。
でも別に、熱い告白なんてしてないし……!
やっぱり課長は、優しくなんてない人。


……だけど私は、この人のことが好きだと思う。
こうして同じ場所にいて、目線を合わせる。ただそれだけで……涙が出そうな程に嬉しいのだから。



部屋に入ると、課長は居間でスーツの上着を脱いで私に渡してくる。
新婚みたいだな、とつい思ってしまった自分にイラッとしつつ、それをハンガーに掛けた。


「で、話の続きだけど」

そう言いながら、課長はまるでここが自分の家かの様に、遠慮することなく座布団に腰をおろす。
そんなところも課長らしいなどと思いつつ、私も彼から少し離れた場所に同じ様に座る。


「何でそんな所に座るんだ。もっとこっち来い」

「……何か怖いから嫌です」

「怖いって何だ」

言いながら、課長の方が私に近付いてきた。
……何なのこの距離、って言いたくなるくらい、顔が、近い。


「キスでもされそうで怖いってことか」

「……そうです」

「正解だ」

「っん……⁉︎」
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