その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
突然塞がれた唇。瞬きも忘れた私の瞳に映るのは、目を伏せて私にキスをする課長の顔。

そのキスは、この間されたそれよりも優しくて甘い。
大切な何かを扱うような、そんな優しいキスだった。


「目くらい閉じたらどうだ」

いつの間にか離れていた唇。
相変わらず至近距離には変わりない彼の顔は、少しだけ呆れている表情だ。


「だって、課長が急に、する……から……」

「違いないな」

肩を揺らして笑いを堪えているかのような課長を見て、またしてもムカついてしまうけれど何とか堪える。


……でも、このキスは何を意味しているのか? 彼は私のことをどう思っているのか……?


疑問に思っていると、課長がゆっくりと口を開く。


「……この間は、悪かったな」

彼にしては歯切れの悪い、そしてバツの悪そうな顔。


「この間って、会社でキスしてきた時ですか? それなら別にもういいです……今だって、突然キスしてきたことには変わりないし……」

「そっちじゃない。飲み会帰りの時のことだ」

「え? ああ……」

飲み会帰りの時というと、私が課長のことを好きな気持ちを笑い話だとか全然気にしてないとか有り得ないとか散々言われたことか。


「キスをしたことについては俺は悪くない。いきなり相田と付き合ってるお前が悪い」

「は、はぁ⁉︎」

酷い言われようだ。誰のせいで相田君まで巻き込んでしまったと思っているのか。
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