その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「か、ちょ……」

一瞬唇が離れた隙に、彼の名前を呼ぶ。

その時に、私がどんな顔をしていたのか自分自身ではわからないけれどーー


「……そんな可愛い顔、するな」


と言われてしまう。


可愛い顔って、どんな顔……。


わからないけれど、きっと課長にしか見せない顔なんだろうな……。



「由梨。好きだよ」


キスの合間に、課長は私が望んだ言葉を口にしてくれた。

嬉しい、って言おうとしたのに、その声を塞がれるかの様にまた唇を奪われる。


でも、一瞬だけど見えたんだ。
照れて恥ずかしがっている様な、見たことのない彼の表情を。


これもきっと、彼が私にしか見せない顔。


恋なんて、きっともうしないと心に決めていた。
それなのに、知り合って間もない彼を気付いたら好きになってしまった。まるで罠に掛かったかの様に、あっという間に……。


でも、それでいい。


彼が側にいてくれるなら、罠でも何でも構わないーー。
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