惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「……ほ、本気で言っているのか?」
落ちるかと思うほど目を大きく見開き、兄が身を乗り出す。信じたくない。信じられない。そんな表情だった。
もちろん、彼氏ができたのは口からでまかせ。百パーセント嘘。でもそこで『冗談だよ』と言うわけにはいかない。意を決してきっぱりと私は頷いた。
「だからもう私の世話を焼いたりしないで、お兄ちゃんは自分のことだけを考えて大丈夫なの」
彼氏ができたと知れば、きっと今までのように過剰に干渉できなくなるはず。学生の頃ならまだしも、私も二十七歳になったのだから、さすがに兄だって学生の頃の対応のままではいられないだろう。
これできっと兄もきちんと恋人に向き合えるに違いない。
茫然としていた兄が突然立ち上がる。魂が抜けたような顔だった。
「……お兄ちゃん?」
私の呼びかけにも無反応。兄はそのまま玄関から出て行った。
……わかってくれたんだよね? 驚いただけだよね?
どこか釈然としないまま口に運んだホットサンドは、なんだかちょっぴり切ない味がした。