惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
ハプニングが呼んだ奇跡
午前八時半。空の彼方にまで突き抜けるんじゃないかと思える地上五十階のタワービルに、大勢の人が吸い込まれていく。その波に乗った私も通行証をかざしてゲートを抜け、エレベーターで二十七階へ。
私の勤めるグランツ開発はリゾート開発を手掛ける会社で、そのビルの二十五階から二十七階にある。規模は小さいながらも誠実で時代の波に乗った仕事ぶりが評価され、業界での知名度はこのところうなぎのぼり。
私は短大を卒業して入社以来、そこの事業企画部で開発の基礎となる調査・分析から商品企画までを手掛ける仕事をしている。
事業企画部のドアを開け挨拶をしながらデスクに着いたとき、私のスマホにメールが届いた。
お兄ちゃんからだ……。
変な別れ方をした今朝のことが気がかりだったこともあり、即座にメールを開く。その本文を読んで、思わず「えっ!?」と大きな声が出た。静かな事業企画部内に私の高い声が響く。
「……すみません」
方々に頭を下げつつ、もう一度よくメールを読み返してみると、何度確かめてみても同じ文面がそこにはあった。
『彼氏に会わせてほしい』
たった一文だけの簡素なメールだった。