惑溺オフィス～次期社長の独占欲が止まりません～

いつもは顔文字や絵文字が飛び交うメールなのに、そんな軽いノリはひとつもない。やっとの思いで送ってきたことはよくわかった。

どうしよう。彼氏なんて嘘なのに……。

私がひとり動揺していると、「田宮さん」と岩崎部長から呼ばれた。

沖縄生まれの三十九歳。一見するとおおらかに見える穏やかな顔立ちとぽっちゃりとした体型をしている岩崎部長は、グランツ開発きってのやり手。うちの工藤副社長が手掛けた沖縄のリゾート開発に惚れこんで、他の開発会社からグランツへ転職してきた。

兄のメールの件はいったん置いておき、気を取り直して部長のデスクへ向かうと、これから急きょミーティングがあると言う。

グランツ開発が数々の大手企業を押しのけて開発を手掛けることになった【アルカディアリゾート】が、避暑地や別荘地として有名な軽井沢に来年の四月にオープンすることになっている。

すでに敷地内の整備は始まっていて、ホテルの建築が間もなく着工するところ。アルカディアリゾートの施主であるホテル【エトワール】の社長からの要望で、その進捗状況のヒアリングをしたいとのことらしい。


「田宮さんもすぐに来てくれるかな。社長室脇のミーティングルームだ」
「はいっ」


早速、必要な資料の準備をして、私も部長のあとを追った。