惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

すぐにピンときた。昨日、陽介さんとのことを疑われて、機転を利かせてくれた森くんが咄嗟に私と付き合っていると嘘を吐いてくれたから。


「あの、それは」


違うんです。そう言いかけて口をつぐむ。

陽介さんの彼女でいられるのは今日を含めて三日。別れることが決まっているのだから、あえて否定しないほうがいいのかもしれない。優しい陽介さんのことだから、私の気持ちが陽介さんにあることで別れづらくなるだろうから。ほかに好きな人がいると思ってもらったほうが、私と容赦なく別れられる。


「香奈? どうな――」


陽介さんが私の肩に手を置いたときだった。陽介さんの胸ポケットでヴヴヴとスマホが振動する。
陽介さんは軽く息を吐いてからスマホを取り出し、私に背を向けて話し始めた。


「はい、工藤です。……なに? ……わかった。すぐに向かうから、それまで対応を頼む」


なにかあったのか、途中から陽介さんの声色が変わった。私に振り向いた顔も、さっき以上に険しい表情だ。


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