惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「軽井沢で事故があった」
「事故!?」
「今からすぐに軽井沢へ向かうから、さっきの話は戻ってからにしよう」
陽介さんは焦ったように慌ただしくミーティングルームを出ていった。
事業企画部へ戻ると、岩崎部長が神妙な顔で電話を置いたところだった。事故の一報がこちらにも入ったようだ。
「アルカディアリゾートの建設現場で事故が起きたそうです」
「怪我人は出たんですか?」
「どんな事故だったんですか?」
「はっきりしたことはまだわかりませんが、ワイヤーで釣っていた機材が落ちて、下にいた作業員が何人か巻き込まれたそうです」
事業企画部のみんなから次々にあがった質問に岩崎部長がとつとつと答える。険しい表情からは、大変な事態になっていることが窺えた。
機材が落下……。
恐ろしい場面を想像して、背筋にヒヤリとしたものが走る。
大規模なリゾート開発が行われていることはマスコミにも宣伝済み。事故の大小にかかわらず、世間にもすぐに知れ渡るだろう。もしも人が亡くなるようなことにでもなったりしたら、それこそ大ごとだ。
陽介さん、大丈夫かな……。
慌てて軽井沢へ向かった陽介さんのことが心配でたまらなかった。