惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
看護師からアナウンスされて中へ入る。
「では今日は、ギプスをとりましょう。一ヶ月間、煩わしかったでしょう? やっとすっきりできますよ」
椅子に座るなり、先生に清々しい顔で出迎えられた。
やっとすっきり、か……。とてもそんな気持ちにはなれない。いっそのこと、一生この骨がくっつかなければいいのに。
「田宮さん、どうかしました?」
返事もできずに恨めしい気持ちで左手を見つめていると、先生が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ……。よろしくお願いします」
おずおずと左手を差し出した。
先生の手によってギプスが解体されていく。専用のカッターであっという間に外れたギプスが、ゴロンと処置台に転がった。
レントゲン撮影でも異常なし。
「ギプスが取れたばかりなので、最初のうちは指の曲げ伸ばしがしづらいと思いますが、数日で違和感はなくなりますのでね。お大事にしてください」
「ありがとうございました……」
深く頭を下げて、クリニックをあとにした。
とうとう治ってしまった左手をぼんやりと見つめながら外へ出る。先生の言っていたように指の動きはぎこちないものの、痛みはまったくといっていいほどない。完治といってもいいくらい。
重いため息を吐く私の頬を冷たい北風が撫でていった。