惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「じゃあどうしたんだ。なにがあった? お兄ちゃんに話してくれるか?」
私が勝手に好きになっただけ。約束は一ヶ月。別れなきゃならないことを知りながら、好きになった私が悪いのだから。
泣きじゃくる私の肩を抱き、兄がよしよしと頭を撫でる。
「落ち着いたらでいいから、話してくれるよね?」
その腕の中でこくこくと頷いた。
こうなることは、どこかでわかっていたような気がする。女子社員みんなが憧れる陽介さんのそばにいて、本気で好きにならないわけがない。最後につらい思いをすることは予測がついたのに、それでも彼氏になってもらったのは、目先の幸せに目が眩んだから。つかの間でもいい、陽介さんの恋人になれるチャンスを逃したくなかったから。
だからこの涙は自業自得。
どのくらい泣いていたのか、ようやく涙が落ち着き、兄にこれまでのことを正直に打ち明けた。陽介さんは本当の恋人じゃないこと。怪我の代償として付き合ってくれたこと。怪我が治るまでの関係だったこと。
兄は苦しそうな表情で最後まで黙って聞いてくれた。