惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

「香奈、ごめん。お兄ちゃんが悪かったんだな。お兄ちゃんのことをそこまで思ってくれていたとは……。そんなことにも気づかず、なんて不甲斐ないんだ。ごめんな、香奈」
「……お兄ちゃんは悪くない。嘘を吐いた私がいけないの」


兄の過保護ぶりから逃れようとして、間違えた手段をとった私の痛恨のミス。


「いいや、香奈はなにひとつ悪くない。今回のことはお兄ちゃんに多大なる過失があったからこそ。でも、そんな香奈の気持ちを弄んでキ、キ、キスなんぞしたアイツも許せない」


兄が拳を握り締めプルプルと震わせる。
そういえば兄には、陽介さんに不意打ちでキスされた場面を目撃されていたのだ。


「お兄ちゃん、落ち着いて。あれは不可抗力だったから。私の足がふらついて、弾みで触れちゃっただけなの。だから……」
「弾み? そんなわけがあるか。あれはな――」
「もう、いいの」


兄を強い口調で遮る。

もういい。私の怪我は治った。だから陽介さんとはさよなら。それだけのこと。

兄は眉をしょんぼりと下げ、「わかったよ」とため息交じりに言った。

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