惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

陽介さんと私の間に割り込み、立ちはだかる。背中から静かな怒りがにじみ出ていた。


「今さら香奈になんの用件があって来たんでしょうか」
「お兄ちゃん、ちょっと待って!」
「これが待っていられるわけがないだろう? いいか、香奈、お兄ちゃんに任せるんだ」


私の前に立ち塞がる兄の腕を引っ張って制止しようとしたものの、一向に聞く耳をもってくれない。兄はふぅと大きく息を吐き出し、陽介さんをじっと見据えた。


「香奈から事情はすべて聞いています。兄として不徳の致すところだったことは認めます。ですが、副社長ともあろう人が、妙な話を持ち掛けられたのをいいことに、香奈の気持ちを弄ぶとはいったいどういうことなんでしょうか。香奈がどれだけ泣いたとお思いですか?」
「ねぇ、お兄ちゃん、やめて」


グイと引いた腕は兄にやんわりと外された。


「……泣いた?」


陽介さんがポツリと呟く。


「あ、いえ、違うんです。気にしないでください」

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