惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
サイドだけ整髪料で固めた黒髪が、膝を突いた拍子に顔にかかった。
「手を見せて」
右手で覆っていた左手をそっと彼に差し出す。
「……ちょっと腫れてきたね。すぐに病院へ行こう」
「ですが……!」
これから副社長も同席する打ち合わせがあるのに。副社長がいなければ、エトワールも納得しないだろう。
慌てて手を引っ込めた弾みで激痛が走り、思わず顔をしかめた。
「やせ我慢はするものじゃないよ。早く行こう」
「ちょっと待ってください……!」
無事なほうの腕を引っ張って立たせられたので、その場で足を踏ん張る。小脇に抱えていたファイルは、指を挟まれた衝撃で私の足元に落ちていた。
私が拾おうとすると、副社長がすかさず長い指でそれを拾い上げ、私に手渡す。
「ありがとう、ございます……」
「中に報告してくるから」
「ですがっ」