惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

きっと私の声は彼に届いていない。私が戸惑う隙を突いて、副社長がミーティングルームの中へ入る。それを追いかけるようにドアを開けると、集まっている人たちから何事かという目を向けられた。

その中には当然ながら、このミーティングを要請したエトワールの小池社長もいる。白髪の混じったシルバーの髪をオールバックにし、柔和な顔には笑みを湛えている。


「小池社長、大変申し訳ありませんが、私の不注意でうちの田宮に怪我を負わせてしまいました。これからすぐに彼女を病院へ連れていきたいのですが、よろしいでしょうか」
「怪我?」


小池社長の視線が私に注がれたので、「……申し訳ありません」と腰を折る。


「いや、キミが謝ることではないだろう」
「はい……」


小池社長に優しく制され恐縮する。

こうしている間にも痛みは増していく。おそるおそる見てみれば、左手の中指から小指にかけて紫色に腫れ、まるでそこに心臓があるかのようにドクドクと脈を打っていた。冗談抜きに痛い。

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