惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「急いで連れて行ってあげてください」
「申し訳ありません。すぐに戻りますので、それまでの間、事業企画部の岩崎が取り仕切ります」
「わかりました」
小池社長から同意を取り付け、岩崎部長に目配せをする。岩崎部長もそれに大きくうなずいた。
「じゃ、行こう」
副社長に背中を押されてミーティングルームをあとにする。持っていた資料はテーブルの隅に置かせてもらった。
副社長が私を労わるように肩を抱いて歩くから心臓は早鐘。おまけに通り過ぎる女子社員からは嘆きにも似た悲鳴が上がる。痛いのを堪えながら身体を小さくして歩くけれど、そうしたからといって私の存在を消せるわけもない。
「だいぶ痛そうだね。大丈夫?」
痛みに苦しんで肩を丸めているのかと思った副社長は、心配そうに横から顔を覗き込んだ。甘いマスクがあまりにも近づき、心拍のリズムが狂う。
「……だ、大丈夫です」
眉根を寄せた揺れる瞳に答えた。