惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

本音を言えば大丈夫ではないけれど、副社長にあまり気にしてほしくない。痛みを堪え、エレベーターで一気に一階まで下りた。

グランツ開発が入っているタワービルの一階には内科や整形外科、心療内科のクリニックがあり、近隣に勤める人たちのちょっとした駆け込み寺的な存在になっている。

すりガラスのドアから中へ入ると、ブラウン系でまとめられた受付と待合室は狭いながらも落ち着いた雰囲気がある。ところどころに観葉植物が置かれ、どの椅子も座り心地のよさそうなひとり用のソファ。ヒーリング効果を狙ったようなBGMが流れていた。

待合室には、スーツ姿の男性がひとりとOL風の女性がひとりだけ。それほど待つことなく診察してもらえそうでホッとする。早くミーティングに戻りたい。

私に代わって受付を済ませてくれた副社長が隣に腰を下ろすと、OL風の女性がチラチラとこちらへ視線を投げてよこした。

もしかして副社長を見てるのかな……。

こっそり隣の彼を横目で見ると、みごとに通った高い鼻と優しい目元が目に入った。

背は高いし、人の目を引く顔立ちをしているから当然といえば当然。社内の人気を思えば、その女性の反応は自然のことと思えた。

盗み見ていたつもりが、いつのまにか見入っていたらしい。副社長がふとこちらを見た。バッチリと目が合い、私のほうがぎこちなく逸らす羽目に。

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