惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
自分の手なのに、恐ろしいものを見るような目を向ける。
私の骨が折れているなんて……。
信じたくない大怪我の診断を副社長に下されて眩暈がしてくる。ポケットからハンカチを取り出して、汗も出ていないのに額を拭った。
「ごめん、本当に悪かった」
「いえ、私の不注意ですから」
恐縮しつつ副社長に頭を下げた。
それから待つこと十五分。診察を受けた私が言い渡されたのは、副社長の予想通り『ヒビが入っていますね』だった。
撮影したレントゲン写真を見た先生の見立てだと、全治一ヶ月。『利き手じゃなかっただけマシですね』と言われながら、中指、薬指、小指と三本まとめてシーネで固定され、まるでロボットのような左手が仕上がった。
「こんな怪我を負わせて、申し訳なかった」
診察を終えてクリニックを出ると、副社長は背筋をピンと伸ばした状態で突然頭を下げた。あまりにもいきなりだったので、虚を突かれる。
三階まで吹き抜けになったエントランスロビーに燦々と太陽が降り注ぎ、多くの会社員が行き交う。
そんな中、最敬礼でお辞儀をされ、方々から向けられる目が痛い。