惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「あの、本当に大丈夫ですから」
そう言って急いで頭を上げてもらった。
先生の言うとおり利き手じゃなかっただけまし。悔やんでも起きた結果は変わらないし、人差し指と親指はかろうじて自由が利くから、それでどうにかしよう。
「その状態ではいろいろと不自由だね」
「なんとかなりますから」
自信はないけど、右手は使えるから大丈夫だろう。
「それじゃ怪我のお詫びに、田宮さんの希望をひとつだけ叶えさせて」
「……はい?」
なにを言われたのか、一瞬わからなかった。
ぽかんとする私に副社長が、「なにか俺にしてほしいことがあれば引き受けるよ」と優しい口調で繰り返す。
なにかしてほしいこと? ……副社長に?
「たとえば、食事の準備をしてほしいだとか。その手だと困るんじゃない?」
「……そうですね」