惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
普段はなるべく自炊を心掛けているけど、この手だと無理かな……。
でも永遠にこの手のままではないんだし、外食やお弁当でやり過ごせばいい気もする。
「田宮さん、ひとり暮らしじゃなかった?」
副社長にそう言われて、私は大変なことを思い出した。
もしもこの怪我のことを兄が知ったら、それこそ大騒ぎになるだろうし、これまで以上に私の世話を焼くに違いない。今朝、私が『彼氏ができた』と言ったことすら霞むほどに。
そこでもっと重大なことを思い出した。
『彼氏に会わせてほしい』と言われているんだ……! どうしよう。彼氏なんて嘘なのに……。
「どうかした?」
いつまでも答えずに考え込んでいると、副社長が不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
そこでふと、とんでもないことを思いつく。
副社長にお願いできないよね……?
切実な要望が頭にひとつだけ浮かんだけれど、あまりにも無謀すぎて言い出す勇気が持てない。
「田宮さん?」