惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

副社長の瞳が大きく揺らいだ。気のせいかもしれないけれど、耳もほんのりと赤い。


「“ふり”でいいんです」


即座に重要な訂正を入れる。さすがに副社長の本当の彼女にしてもらえるとは思わない。私には手の届かない高嶺の花だから。


「……ふり?」


副社長は怪訝そうに顔をしかめた。ほんの数秒前にかすかに見せた戸惑いは、綺麗さっぱり彼から消え失せる。


「この怪我が治るまででいいんです……」


そんなことはできないと拒絶される前に先回りをする。全治一ヶ月とのことだから、そのくらい兄の目を誤魔化せれば……。


「……どういうこと?」


副社長は解せないといった表情で私の目の奥を覗き込んだ。


「実は……」

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