惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

玄関のドアを開けた先には、片手にホットサンドをのせた皿、モニターに映ったままの爽やかな笑顔の兄がいた。
形のいい唇の端をニッと上げ、美しい二重瞼を細める。高い鼻筋にはかすかに笑い皺が浮かんだ。


「香奈、おはよう。今日もかわいいね」


毎度おなじみのセリフを言ってから、子供を相手にするかのごとく私の頭をポンポン。兄は靴を脱いで当然のように上がった。


「お兄ちゃん、ちょっと……!」


私が鍵を掛け直しているうちに、玄関から直結したダイニングキッチンにあるテーブルにホットサンドを置く。
いっさいブレのない、いつもの流れは自然すぎて止める術もない。まるで自分の部屋のように兄がキッチンへ足を向けたところだけは、なんとか急いで引き留めた。


「コーヒーなら自分で入れるから大丈夫!」


兄のルーチンワークを阻止して「とにかく座ってもらってもいい?」と椅子を引いて勧める。


「そうか? まぁあんまり時間はないんだが」


そう言いながらも兄はまんざらでもなさそうに座った。

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