惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「お兄ちゃんに彼氏がいるって言っちゃったから、副社長に彼氏のふりをお願いしたの。そうしたら、演技はできないからって……」
「……それで付き合うことに?」
「と言っても、この怪我が治るまでなんだけど……」
こうして琴子に話してみても、やっぱり不思議な展開になったことに変わりはない。この怪我がなかったら、絶対にお近づきになれない相手だ。
私の話を聞き終えた琴子の目が点になる。聞き違いでもしたのかと首をゆっくりと傾げた。
「おっ、ふたりもここに来てたのか」
不意にそんな声が聞こえたかと思ったら、琴子の隣で人影が動く。同じく同期入社の森健太郎(もり けんたろう)くんだった。
癖のある髪を生かしたラフなヘアスタイルは、切れ長の目と細い鼻筋というシャープな顔立ちを和らげている。スクエア型の黒縁眼鏡のせいかインテリに見える。
案内してきた店員が「ご合席でよろしいですか?」と戸惑いつつ、琴子と私に交互に目線を泳がせる。
「はい、大丈夫です」
「では、ご注文がお決まりになりましたら――」
「アボカドバーガーとホットコーヒーで」