惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
私より六つ年上の兄は三十三歳。地上十階建てマンションの三階に私の部屋があり、兄の部屋はその十階にある。
短大を卒業と同時に念願のひとり暮らしをすることになったとき、兄は『それなら一緒に住もう』と言って、一LDKの部屋から二LDKの部屋へ意気揚々と引っ越した。両親も兄が一緒なら安心だからと話を進めていたけれど、せっかく実家を出るのに兄が一緒では意味がない。
なんとかそれを回避しようと、私は必死に両親を説得。しばらく折り合いがつかずにすったもんだとしていた。そこで出た妥協案が、同じマンション内に部屋を借りることだった。
ところが、兄はなにかにつけて私の部屋へやってきてはいろいろと世話を焼きたがる。
今朝のように手作りの朝食を持ってくるのは当たり前。風邪をひいたときは、『俺に移せば治るから』と泊まりこみで看病まで。
兄に言わせると、六つ離れた妹の私のことがかわいくて仕方がないらしい。いわずと知れたシスコンなのだ。
「どうしてお兄ちゃんがここに来られるの? 美沙(みさ)さんは? 昨夜、一緒だったでしょう?」
美沙さんというのは、兄の彼女。昨夜の兄は美沙さんとデートを楽しみ、いつもの流れだと、そのまま部屋で朝まで過ごすパターンだっただろう。兄から“おやすみ”のメールがこなかったのはそのため。