惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
多くの人が行き交う南口のロータリーを見渡せる場所に立ち、登録したての副社長に『今着きました』とメールを送る。
彼から連絡が入るかもしれないと、スマホを片手に通り過ぎる車を見つめていると、徐々に緊張していくのが自分でもわかった。
男の人と待ち合わせをするのは、なんと五年ぶり。しかもその相手が副社長だということが、さらに胸を張り詰めさせる。
そうしてチラチラと時間を気にしていた私の腕時計が、ちょうど一時を指したとき。私の前にゆっくりと高級車が停車した。駅に「ポーン」と時刻を知らせる鐘の音がひとつ鳴る。
運転席から降り立ったのは、まさしく工藤副社長だった。
軽く頭を下げようとして、私はそのまま固まる。
「お待たせ」
私の前に立った副社長を見て、呆けたように立つ私。
「……どうかした?」
副社長は不思議そうな目を私に向けてよこした。
「あ、いえ……」