惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
そうは誤魔化したけれど、ドキッと弾んだ鼓動が私の心臓を弄ぶかのように早鐘に切り替わる。副社長の私服姿が素敵すぎて目を向けられない。
無地の白シャツにグレーのテーラードジャケットを合わせ、ベージュのチノパン。きっちりし過ぎず、それでいてラフではない絶妙なスタイルだった。恋人の兄に紹介されるときに相応しいといったらいいのか。
普段着ている上質なスーツ姿ももちろんカッコいいけれど、そのギャップにときめいてしまった。
「それじゃ、行こうか」
「は、はい……」
ぎこちなくうなずく私の腰に、彼の手が添えられる。さり気なく助手席へエスコートする仕草に胸が猛スピードで高鳴る。
おかげで、助手席に乗って車が走り出しても、副社長を意識して神経が向かうのは右隣ばかり。
「手の具合はどう?」
急に話しかけられ、「はいっ?」と声が裏返った。
「手だよ。左手」
「……あ、はい、大丈夫です」
咄嗟に自分の左手を見てから、慌てて答える。今日も左手には、仰々しく真っ白な包帯が巻かれている。