惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

「お兄さんの前でもそのほうがいいと思うよ」


言われてみればそのとおり。
彼氏として紹介するのに、呼び方が“副社長”では真実味がなくなる。副社長は演技ができないから本当に付き合おうと言ってくれたけれど、気持ちは伴っていないわけだから“ふり”も同然。

きっと厳しいであろう兄の目を欺くには、本当の恋人同士に見えるようにしなくては。


「……では、そうさせてください」
「ほら、そんな固くならないで。リラックスリラックス」


ちょうど赤信号で車が止まり、膝の上に置いていた私の手に副社長の手が重ねられる。突然のことにビクンと肩を弾ませると、副社長は「俺のこと、嫌い?」と私の顔を覗き込んだ。

どことなく試すような眼差しに心臓は今にもオーバーヒートしそう。俯いて首を横に振るだけで精一杯。

嫌いだなんてことがあるはずもない。むしろ、これ以上好きになっちゃいけないと気持ちを抑えることに必死になる。


「ほんとに?」


確認までされて、こくこくとうなずく。

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