惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
驚くのも無理はない。三十二歳の若さで副社長のうえ、そんな大それた人が妹である私の彼氏だというのだから。
「僭越ながら」
副社長が軽く頭を下げる。
「副社長だとは……」
口惜しそうにも聞こえる言い方だった。
「ですが、それは社長の口添えがあったからで、僕ひとりで成し得たことではありませんので。今後も職位に相応しい人間になれるよう精進していく所存です」
謙虚な態度を見せると、兄は片方の眉をピクリと動かした。想像していた以上の人物像だったのかもしれない。兄の反応は上々だった。
会話の合間に忙しなくコーヒーを飲んでいたせいで、兄のカップは空っぽ。
「おかわりをお願いしましょう」
すかさず副社長が軽く手をあげて店員を呼び、スマートに注文を済ませる。
「す、すまないね」