惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
まさかそうくるとは予想もせず、次の一手も思い浮かばない。
そんな私の手を副社長がそっと握った。“座って”ということらしく、ドキッとしつつ優しく手を引かれてすとんと腰を下ろす。
「香奈さんのことは一時のことだとは考えておりません。将来のことも真剣に考えております」
副社長が思いがけずそんなことを言うものだから、驚いてパッとその横顔を見た。真摯に真っすぐ兄を見つめる眼差しに鼓動が揺れる。
これはあくまでも兄の興味を私から逸らせるための嘘。それがわかっているのに胸が高鳴っていくのは、プロポーズにも聞こえるセリフを言われたのが初めてだから。
呆けたように副社長を見ていると、ふと彼がこちらを向く。慌てて口元を引き締めると、副社長は優しく微笑んだ。
「そうだよね、香奈」
「あ、は、はい……」
かろうじてそう答えてうなずいた。
兄の目がなにかを探るように細められる。
「……ふたりは本当に付き合っているんだよね?」