惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

私の挙動不審ぶりを見て、なにか感づいたか。兄はテーブルに身を乗り出すようにして私たちを見比べた。


「や、やだな、そうだよ」


追及を逃れたくて兄から目を逸らすと、すぐさま副社長が助け船を出す。


「まだ付き合って間もないので恋人同士に見えないのかもしれませんが、香奈さんとのことは今申し上げたとおり真剣に考えております。付き合っている証拠をお見せしなければ信じていただけないというのであれば、ここで香奈さんとキスでもいたしましょうか」
「キス!?」


これには兄はもちろん、私も副社長の隣で飛び上がった。おかげで店内の視線をあちこちから浴びる羽目に。
あまりにもサラッと言うから、本気なのか嘘なのかわからない。


「そ、そんなことはしなくてもいい」


驚いた顔のまま、身振り手振りを交えて兄が首を大きく横に振る。断ってくれてホッとし、私は兄の目を盗んで息を吐いた。

せっかくおしゃれなカフェに来たというのに、緊張と動揺で疲れ果て、ラグーンでリゾート気分を味わうどころではなかった。

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