惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「筋トレですか?」
読書だとか映画鑑賞だとか、そういった静かなものを勝手に想像していたから思わず聞き返した。穏やかなイメージの副社長と筋トレが結びつかない。
「そう、筋トレ。ほら、ちょっと触ってみて」
副社長が前を見ながら胸を張ってみせる。
そこを触れってこと? そんなところは無理……。
私が躊躇っていると、副社長はおもむろに私の右手を取って自分の胸にあてがった。想像以上に固い胸板を感じて、顔がカーッと熱くなる。
「どう?」
「か、硬いですね」
副社長の手が緩んだ隙に自分の手をサッと引っ込める。
「高校の時から一日も欠かさずにやってるから、趣味と言うより日課か」
「部活でやっていたんですか?」
「部活では筋トレより柔軟だったかな。陸上部だったんだ」
「あ、なんとなく想像ができます。副社長、足が速そうです」