惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

「じゃ次は香奈の番だ。趣味は?」
「私の趣味……これといってそう呼べるものはないのですが、お菓子作りは好きです」


子供の頃から、時間があればクッキーやケーキを焼いたり。夢中になることといったら、それだった。


「香奈の作ったスイーツを俺も食べたいな。……でも、その手じゃ無理か」
「それじゃ、この怪我が治ったら――」


そこまで言ってハッとする。私たちの関係は、この怪我が治ると同時に終わりを迎える。陽介さんに食べてもらえる機会はない。


「楽しみにしてるよ」
「……はい」


せっかくの楽しい雰囲気を壊したくなくて、胸をチクンと刺した痛みにふたをして陽介さんにうなずいた。

その後も陽介さんとの会話が想像以上に弾み、気づいたときには窓の外に山の緑が広がっていた。景色も目に入らないほどに楽しい時間だった。

私たちはどこに来たんだろう。


「どこに連れてきたの?って顔だね」


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