惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「手を繋ぎたいけど、一応ここは職場も同然だから諦めるとするか」
ひとり言のように言って歩き出しながら、陽介さんは「転ばないように気をつけて」と私に振り返る。
「はい、ありがとうございます」
現場にはいろんな器材や木材、鉄筋などが置かれている。悠然と動くクレーン車が三台、目に入った。
ときおり陽介さんに気づいた工事関係者が「お疲れさまです」と頭を下げる。
「この辺にはレセプション、それでここから先にはヴィラが建ち並ぶ予定だ」
陽介さんがゆっくりと歩きながら説明をする。手元にはない完成予想図を私は記憶から呼び起こしていた。
自然の地形をそのまま使う予定のリゾート内は、そこここに美しい景観が臨める。ただひとつ人工的に造成される川は、このリゾート内を縦断する重要なアピールポイントのひとつ。その川岸にヴィラタイプの客室が建築予定になっている。
「完成前なのに、なんだか癒されますね」
眼下に広がる渓谷のせいか、景色を見ているだけでも気持ちがすーっとしてくる。