惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「上質の癒し空間を提供したいと考えているけど、完成前から香奈にお墨付きをもらえたな」
「私のお墨付きじゃ、効力はあまりないですけど」
「少なくとも俺にはあるよ」
冗談とも本気とも取れる言葉に私ひとりが動揺する。
陽介さんはきっと、恋人同士という状況を純粋に楽しんでいるのだろう。私に気持ちがあるとかないとか、そういったこととは別次元で。
意味深に視線を投げかけられて、どうしたらいいのかわからなくなる。私も純粋に楽しもうと思いながら、陽介さんに本気で惹かれないようにしようとブレーキをかける。そのバランスが難しくて、ぎこちない笑みになった。
「ここからの眺め、とても素敵ですね」
そんなセリフで誤魔化してみる。
でもそれは嘘でもない。遠くに見える雄大な浅間山。目の前に広がる深い緑。あと半月もすれば、赤や黄色に染まる美しい景色が楽しめそう。
「実はここに“私の特等席”というチェアを置く予定になってるんだ」
「特等席……」
繰り返してみると、なんとなくいい響き。