惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「そう。このリゾート地は、日常から遠く離れた非日常を堪能する場所。ワンランク上の設備とともに、自然との一体感を味わえるようにね。座り心地のいい椅子で、飽きることなく自然に溶け込めるように。その椅子はもちろん、ここだけじゃなくリゾート内のいたるところにね」
目を閉じて、その画を想像してみる。
風が運ぶ緑の匂い、鳥たちのさえずり、川のせせらぎ、ゆっくりと流れる時間。雄大な景色を心ゆくまで堪能できる特等席に座る自分を思い浮かべた。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、吐き出しながら目を開けた。
「それ、とっても素敵です!」
つい興奮気味になる。頭の中で思い描いただけで、なんともいえない充足感が私を包み込んだ。
「そう? 香奈に喜んでもらえてよかった」
柔らかく笑う陽介さんを見て、胸がキュッとなる。優しい笑顔に思わず釘づけになった。
じっくりと現場を見て回っているうちに陽は落ち、辺りが静けさと暗闇に包まれる。気づけば、工事関係者も引き払ったようで、リゾート内は夜の森のような様相を呈していた。
誰もいないからいいだろうと陽介さんに手を引かれながら車まで戻り、高速に乗る前に食事を軽く済ませて東京を目指した。
夜の訪れと、満腹感。そして等間隔に置かれた高速道路の外灯のオレンジ色が、私を眠りへと誘う。陽介さんの運転中に眠ることはできないと、手の甲や腿を抓ったりして懸命に堪えていたけれど、さすがにそれも限界に近づきつつあった。時折ふっと瞼を閉じては、強制的に開くということを繰り返しているうちに、いつの間にか吸い込まれるように心地良い眠りに着いた。