惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
それは当然のような気がする。あまり近づきすぎて本気で好きになりたくない。憧れで留めておけば、怪我が治ってこの関係が終わるときにも気持ちを引きずることがないだろうから。
「ともかく、送っていくよ」
「はい、よろしくお願いします」
頭を軽く下げて、もう一度シートにゆったりと背中を預けた。
今日は陽介さんと思いがけず長い時間一緒に過ごし、見てみたいと思っていたアルカディアリゾートにも行けたからか、なんだかとても満ち足りた気持ち。
兄にも無事紹介を済ませたことでホッとした部分もあった。これできっと、兄も自分のことだけに集中できるようになるだろう。
そんなことを考えているうちに自宅付近の景色が見えてきた。
「あの信号を過ぎて百メートルくらい走った左手にあるグレーのマンションです」
ひとつ先にある信号を指差すと、陽介さんは「オッケー」と言ってスピードを徐々に落としていく。青信号を通り過ぎ、ハザードランプをつけた車がゆっくりと止まる。陽介さんは「今そっちに回るから待って」と言って、運転席から降り立った。