惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
助手席のドアが開けられ、彼の手が差し出される。何度されても照れる行動が、私の心臓を優しく刺激した。足を車の外に出し、陽介さんの手に自分の右手を重ねると同時にそっと引き上げられる。
「今日はありが――」
お礼を言おうとした瞬間、腰に腕を回した陽介さんに引き寄せられ、その胸に抱かれた。驚いて見上げた拍子に、今度は唇が重なる。鼓動が飛び跳ねる隙もないほどの早業だった。
ほんの数秒だけ触れて離れた陽介さんが、微笑みに甘い眼差しを乗せて私を見つめる。
「おやすみ、香奈」
「お、やすみ、なさい……」
そう言うのがやっとだった。
陽介さんは呆然とする私に軽く右手を上げから颯爽と車に乗り込むと、静かな街の中に消えていった。
……私、今、陽介さんとキスしたんだよね?
あまりにも突然で、あまりにも不意打ち。そのせいで未だに状況が飲み込めない。唇に熱も残らないほどの触れるだけのキスだったのに、その衝撃は大きなものだった。
その場から動けずに立ち尽くしていると、ふと背後に人の気配を感じた。振り返った先にいた人物にドキッとさせられる。