惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「三角巾みたいので腕を吊るしたり、松葉杖を突いたり、そういったことになんか憧れるって言うか。ちょっと触らせて」
そう言いながら、森くんがギプスをはめた私の左手に触れる。
「おっ、やっぱ硬いな。あ、そうだ。ここに激励コメントでも書こうか」
「なぁにそれ」
「ほら、ドラマなんかでもよくあるじゃん。みんなで落書きっていうの? “がんばれ”とか書いたり」
「もうっ、私の手で遊ばないで」
森くんの脇腹をギプスで小突くと、「凶器を使うのは反則だぞ」と笑った。
「田宮さん」
不意に後ろから名前を呼ばれて振り向くと、そこに陽介さんが立っていた。
「はい……」
いつになく真顔の陽介さんを見て、不安が頭をもたげる。
資料になにか不備でもあったのかな。それとも、軽井沢に行ったと思わせる発言をしたことに対して怒っているのかも。