惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「なあんだ、そんなこと。そんなの当り前じゃないか。恋人や妻よりも、もっと関係性の深い妹だということは、お兄ちゃんが一番よくわかっているよ」
やっぱりダメ。兄の私に対する愛情はかなり度が過ぎる。
幼い頃には私も、カッコよくて優しい兄のことが大好きで、『お兄ちゃんと結婚する』と本気で言っていた時期もある。でも、それはあくまでも成長過程にある一過性のこと。
もちろん、兄が私を愛してくれていることは、とっても嬉しい。幸せなことだなと思う。
でもこのままだと、兄も私もきちんとした恋愛ができずに一生を終えることになるんじゃないか。そんな未来が見えたような気がして、急に不安が膨れ上がっていく。
この状況を打破するにはどうしたらいい?
寝起きの頭をフル回転させ、名案がないかと考えあぐねる。これまでの人生で起きた数々の兄の溺愛エピソードを思い返しては、未来に暗雲が立ち込めるばかり。
……そうだ。
私は、あるひとつのことを思いついた。
「ほら、香奈、早く食べないと。仕事に遅刻するぞ? はい、あーんして」
うっかり口を開けそうになり、慌てて唇を引き締める。