生け贄の踊り子は不遇の皇子に舞いを捧ぐ
45、敵襲
ユノは警笛に驚き、鈴を持った手を思わず体に引き寄せていた。
「敵襲──! 」
遠くから張り上げられた声が届く。民衆はその言葉が何を意味するのか瞬時に理解できずにどよめいた。
時を置かず、地響きと共に人々の悲鳴が上がりはじめる。
「敵だ! 蛮族が攻めてきたぞー!!」
城壁の門扉から神殿へと一直線に伸びる道を、蛮族の騎馬たちが人々を蹴散らし駆けてくる。
神殿前の広場に集っていた民衆は逃げ惑い、神殿兵や守備兵は民衆を逃がしつつ剣を抜いて蛮族の前に立ちふさがる。
蛮族は、帝国民をはるかに上回る巨体を乗せて軽々と走る馬によって、たやすく彼らを蹴散らした。蹴散らされた者を、後続の騎馬が容赦なく踏みつけていく。
広場は阿鼻叫喚に突き落とされた。
何が起こったの!?
ユノは舞台の真ん中に呆然と立ち尽くしていた。今日は満月、女神の加護が一番強い日ではなかったのか。
「ユノ!」
叱責の呼び声がするのと同時に、セリウスに腕を強く引かれた。
「何をしている!」
引っ張られるままユノは駆け出す。舞台を降りたところで、神殿の階段を駆け上がってきた蛮族に追いつかれそうになった。
セリウスはユノを神殿の方に押しやる。
「神殿の中へ!」
ユノに背を向けて、セリウスは貴族階級が常に帯びている細身の剣を抜く。
「お前も行け!」
カスケイオスが蛮族の斧を背中に背負っていた大剣で受け止めながら怒鳴った。イケイルスも蛮族相手に奮闘している。
セリウスは小さくうなづき身をひるがえした。ユノを追う。
「セリウス!」
カスケイオスの叫び声がして、セリウスとユノはとっさに振り返る。
背後に別の蛮族が迫っていた。
上半身裸で毛むくじゃらの蛮族が、馬を降りて追ってくる。
セリウスは立ち止まり剣を構えた。蛮族はセリウスの頭部よりずっと大きい斧を振り上げる。
無茶だ。
ユノは叫んだ。
「逃げてーーー!!」
蛮族は斧でセリウスをなぎ払う。
斧を剣で受けたものの、重量差に負けてセリウスは吹っ飛ばされた。
「セリウス様!」
ユノは自分の身の危険を省みずセリウスに駆け寄ろうとした。その腰に太い腕が回されてすくい上げられてしまう。
「きゃあぁぁぁ!」
「ユノっ!」
うつ伏せに転がっていたセリウスが、半身をわずかに起こして叫ぶ。
ユノは体をよじって必死に逃れようとしたが、蛮族の男はユノの抵抗をものともせずに騎乗する。
「ユノーーー!」
「セリウス様!」
起き上がれないセリウスが、ユノに向かって手を伸ばす。その手にユノは懸命に手を伸ばした。
けれども地に転がるセリウスと馬上の男に捕らえられたユノの手が重なることはない。
その代わり、ユノが持ったままだった鈴の一方が転げ落ちた。
蛮族は口に指を当てて口笛を吹いた。そして馬を走らせる。
馬はどんどん加速し、セリウスとユノがお互いを呼ぶ声すらも引き離す。
広場を駆け回っていた他の騎馬たちは、追従して広場を去りはじめた。
「敵襲──! 」
遠くから張り上げられた声が届く。民衆はその言葉が何を意味するのか瞬時に理解できずにどよめいた。
時を置かず、地響きと共に人々の悲鳴が上がりはじめる。
「敵だ! 蛮族が攻めてきたぞー!!」
城壁の門扉から神殿へと一直線に伸びる道を、蛮族の騎馬たちが人々を蹴散らし駆けてくる。
神殿前の広場に集っていた民衆は逃げ惑い、神殿兵や守備兵は民衆を逃がしつつ剣を抜いて蛮族の前に立ちふさがる。
蛮族は、帝国民をはるかに上回る巨体を乗せて軽々と走る馬によって、たやすく彼らを蹴散らした。蹴散らされた者を、後続の騎馬が容赦なく踏みつけていく。
広場は阿鼻叫喚に突き落とされた。
何が起こったの!?
ユノは舞台の真ん中に呆然と立ち尽くしていた。今日は満月、女神の加護が一番強い日ではなかったのか。
「ユノ!」
叱責の呼び声がするのと同時に、セリウスに腕を強く引かれた。
「何をしている!」
引っ張られるままユノは駆け出す。舞台を降りたところで、神殿の階段を駆け上がってきた蛮族に追いつかれそうになった。
セリウスはユノを神殿の方に押しやる。
「神殿の中へ!」
ユノに背を向けて、セリウスは貴族階級が常に帯びている細身の剣を抜く。
「お前も行け!」
カスケイオスが蛮族の斧を背中に背負っていた大剣で受け止めながら怒鳴った。イケイルスも蛮族相手に奮闘している。
セリウスは小さくうなづき身をひるがえした。ユノを追う。
「セリウス!」
カスケイオスの叫び声がして、セリウスとユノはとっさに振り返る。
背後に別の蛮族が迫っていた。
上半身裸で毛むくじゃらの蛮族が、馬を降りて追ってくる。
セリウスは立ち止まり剣を構えた。蛮族はセリウスの頭部よりずっと大きい斧を振り上げる。
無茶だ。
ユノは叫んだ。
「逃げてーーー!!」
蛮族は斧でセリウスをなぎ払う。
斧を剣で受けたものの、重量差に負けてセリウスは吹っ飛ばされた。
「セリウス様!」
ユノは自分の身の危険を省みずセリウスに駆け寄ろうとした。その腰に太い腕が回されてすくい上げられてしまう。
「きゃあぁぁぁ!」
「ユノっ!」
うつ伏せに転がっていたセリウスが、半身をわずかに起こして叫ぶ。
ユノは体をよじって必死に逃れようとしたが、蛮族の男はユノの抵抗をものともせずに騎乗する。
「ユノーーー!」
「セリウス様!」
起き上がれないセリウスが、ユノに向かって手を伸ばす。その手にユノは懸命に手を伸ばした。
けれども地に転がるセリウスと馬上の男に捕らえられたユノの手が重なることはない。
その代わり、ユノが持ったままだった鈴の一方が転げ落ちた。
蛮族は口に指を当てて口笛を吹いた。そして馬を走らせる。
馬はどんどん加速し、セリウスとユノがお互いを呼ぶ声すらも引き離す。
広場を駆け回っていた他の騎馬たちは、追従して広場を去りはじめた。