フツリアイな相合い傘



「あ、いたいた。西條さん」

いつも以上に気配を消して放課後の教室を出たあと、上履きを履き替えて急いで昇降口から立ち去ろうとしていた私は、背中から聞こえてきた邪気のない明るい声にビクリと身体を震わせた。

振り返らなくても、それが佐尾くんの声だということはわかっている。

わかっているから、敢えて振り返らずに出口へと歩を速めた。


「西條さん、ちょっと待ってよ」

私が気付いていないと思ったのか、佐尾くんの声が諦めることなく追いかけてくる。


「西條さん、待ってってば」

何度もしつこく追いかけてくる声を、いつもなら無視できずに最後には振り返ってしまう。

だけど、今日以降はもう振り返っちゃいけない。

いや、何があっても絶対に振り返るまいと固く決意していた。


「西條さん」

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