フツリアイな相合い傘
足音とともに近付いてくる声を無視して、昇降口の軒先でスクールバッグから取り出した傘を開く。
そのまま雨空の下に一歩踏み出そうとしたとき、左側の肩を思いきりつかまれた。
軽い痛みに顔を歪めたのも束の間、強い力で引っ張られて傘ごと後ろに振り向かされる。
吃驚して見上げると、いつも笑っていることの多い佐尾くんが、眉間に皺が寄るくらいに眉根を寄せて、怒っているような、それでいて今にも泣き出しそうな、なんとも言いようのない表情で私の前に立っていた。
「西條さん、聞こえてて無視してない?」
そんなふうに訊ねられて、すぐに否定できなかった。
拒否するように視線をそらした私に、佐尾くんがいつもよりも切羽詰まった声で問いかけてきた。
「途中までいれてくれる?傘忘れちゃったんだよね」
「そう」
俯きながらそうつぶやくと、私は傘ごと佐尾くんに背を向けた。