フツリアイな相合い傘
「そう、ってなんだよ。いれてくんないの?」
そのまま歩き去ろうとする私を阻むように、佐尾くんが傘の柄をぐっとつかんだ。
「だって、この前傘にいれたときに話したじゃない。今回限りだって。次はちゃんと傘を用意してって」
冷たい声でそう言って、つかまれた傘の柄を奪うように自分に引き寄せる。
「わかった。じゃぁ、次はちゃんと用意するから、今回だけはいれてよ」
戯けたようにへらりと笑うくせに、佐尾くんはつかんだままの傘の柄を離そうとしない。
軒先に斜めに射し込んでくる雨で、佐尾くんの明るい茶色の前髪が濡れて重たそうに額に張り付いていく。
佐尾くんが雨に濡れていく……
そんな姿を見たら、どうしようもなくなっていつもは傘を差し出してしまう。
「今回限りだから」とその言葉を小さく口にしながら。
でも、今日の私にはそれができなかった。