フツリアイな相合い傘
そばには、倒れた自転車と散らばった荷物。
壊れた傘が3つ。
一瞬前まで私の身体を覆うように倒れていたお母さんが、狂ったように私の名前を呼んで、血走った目で私の顔に触れる。
お母さんの手を濡らしているのは、雨水ではなく赤いもの。
自分の手をそっと額にあてると、そこに鈍い痛みが走る。
私の手を濡らすのも、雨水ではなくて濁った赤いもの。
それが自分の血だと気付いた瞬間、額が叫びたくなるくらいの痛みに襲われた。
私たちとぶつかったのは、視界が悪い雨の日に傘を差して運転していた自転車の男のひと。
庇ってくれたお母さんと一緒に転んだ私は、その衝撃で壊れた傘で額に傷が残るケガをした。
「昔はね、今ほどケガのことを気にしてなかった。だけど小学校のときに、クラスの男の子に傷のことをからかわれたの。『気持ち悪い』って」
それまでそんなこと考えたこともなかったのに。
男の子がどこまで本気で口にしたのかわからないその言葉に、もう癒えたはずの額の傷が鈍く疼いた。