フツリアイな相合い傘

◇


「ありがとう、西條さん。助かった！」

佐尾くんは自宅のマンションのエントランスの前につくと、私に明るく笑いかけてきた。


「これから、雨予報のときはちゃんと傘持ってきて」

傘の下からエントランスの軒先へと飛び跳ねるように移動した佐尾くんが、私を振り返る。


「うん。わかってるんだけど、俺、傘ないんだよね。あいつにあげちゃったから」

私の言葉に、佐尾くんはいつもと同じセリフと笑顔を返してきた。


「ないなら、新しいものを買ってもらうとか。あとは自分でビニール傘を買うとか。色々方法はあると思うんだけど……」

「そうだよなー。次までにはちゃんと用意しとくから大丈夫」

そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる佐尾くんが、雨予報の日に傘を持って来ないのはなんとなく確信犯のような気もする。