フツリアイな相合い傘
よし。今日は大丈夫そうだ。
ほっと胸を撫で下ろして、頭上に傘を翳すと同時に一歩踏み出す。
そのとき。
「あ、いたいた!西條(さいじょう)さん」
背中から聞こえてきたその声に、ドキーンと心臓が跳ね上がった。
そのままドクドクと通常の倍の速さで脈を打つ胸を押さえて、数回深呼吸する。
落ち着いて、私。
まだ大丈夫。
私はまだ振り返ってないし、彼の顔を見ていない。
このまま聞こえなかったふりをして、何事もなかったように立ち去ればいい。
ドキドキと鳴る胸を押さえながら、思いきって雨の中へと一歩踏み出す。
「西條さん、ちょっと待って」
だけど、私の作戦は強行されることはなく……
折りたたみ傘を持っていた方の右肩を、声の主の手によってガッチリと押さえつけられてしまった。