フツリアイな相合い傘


「あ、うん。だって佐尾くん、有名だったから」

「有名?何それ」

小さな声で答えると、佐尾くんがなんだか機嫌良さそうにけらけらと笑う。

高校2年生になるまで佐尾くんと関わり合うことなんてなかったけれど、たぶん私たちの中学の同級生で彼の名前を知らない人はほとんどいなかったんじゃないかと思う。

いい意味で彼はいつも学年中で目立ってて、女の子にも人気があった。

中学3年生のとき、同じクラスになって、一緒に教室移動したりお弁当を食べたりする間柄になった女の子が、佐尾くんのことが好きだった。

佐尾くんとは違うクラスだったし、私もその子も目立つほうじゃなかったから、たまに廊下ですれ違ったりすると、彼女と一緒に喜んでちょっとはしゃいで。

昼休みになると、トイレに行くのを装って佐尾くんの教室の前を通って、彼を見つけては嬉しそうにするその子を微笑ましく見守っていた。


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