フツリアイな相合い傘


さっきまでの無の表情が見間違いかと思うくらい、明るい笑顔を見せる佐尾くん。

そのことにほっとした。


「あー、これ。この前の。こんなとこにこそこそ入れずに、普通に手渡してくれればいいのに」

表情を和らげた私に笑いかけながら、佐尾くんが靴箱から取り出した紙袋を自分のスクールバッグに突っ込む。


「こそこそってわけでは……」

直接返すタイミングを見失い続けた結果なのだけど、佐尾くんから見ればこそこそしてて怪しかったに違いない。


「あの、ありがとう。助かりました」

堂々と返せなかった分、せめてお礼はきちんと口で伝えるべきなのかもしれない。

私はそう言うと、佐尾くんに向かって小さく頭をさげた。

用件は済んだし、これで安心して家に帰れる。


「あ、待って。西條さん」

そのまま佐尾くんからそっと遠ざかりかけたとき、なぜか彼が私を呼び止めた。



< 62 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop