フツリアイな相合い傘
さっきまでの無の表情が見間違いかと思うくらい、明るい笑顔を見せる佐尾くん。
そのことにほっとした。
「あー、これ。この前の。こんなとこにこそこそ入れずに、普通に手渡してくれればいいのに」
表情を和らげた私に笑いかけながら、佐尾くんが靴箱から取り出した紙袋を自分のスクールバッグに突っ込む。
「こそこそってわけでは……」
直接返すタイミングを見失い続けた結果なのだけど、佐尾くんから見ればこそこそしてて怪しかったに違いない。
「あの、ありがとう。助かりました」
堂々と返せなかった分、せめてお礼はきちんと口で伝えるべきなのかもしれない。
私はそう言うと、佐尾くんに向かって小さく頭をさげた。
用件は済んだし、これで安心して家に帰れる。
「あ、待って。西條さん」
そのまま佐尾くんからそっと遠ざかりかけたとき、なぜか彼が私を呼び止めた。