フツリアイな相合い傘
忠告のつもりで言ったのに、佐尾くんは私の言葉を無視してどんどん庭の柵に近付いていく。
「佐尾くん」
唸りながら毛を逆立てている犬を不安な気持ちで見つめていると、佐尾くんが私に背中を向けたまま訊ねてきた。
「西條さん、こいつの名前知ってる?」
「え、名前?チョコ、だけど……」
「へぇ。お前、チョコって言うんだ」
チョコに向かって笑いかけたのか、佐尾くんの頭なふわりと揺れる。
「辛い思いしたときの記憶が残ってるんだな。でも、俺も西條さんもお前に危害を加えたりはしないよ」
優しい声で話しかけながら、佐尾くんが庭の柵を慎重にそっとつかむ。
そのまま辛抱強く話しかけていたら、チョコも佐尾くんへの警戒心を少し解いたのか、それともしつこい彼の態度に諦めたのか。
低く唸るのをやめて、柵越しに佐尾くんと向かい合った状態でそこにすとんと腰を落とした。