フツリアイな相合い傘
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家に帰って次の日の英語の授業の予習をしていたら、お母さんが部屋のドアをノックした。
「和紗(カズサ)。悪いんだけど、食パン買ってきてくれない?スーパーでもその辺のコンビニでも、どこだって構わないから。明日の朝の分、買い忘れちゃったのよ」
財布を持って部屋に入ってきたお母さんが、そこから千円札を一枚抜いて私の勉強机の端に置く。
「キリがいいときでいいから。お願いね」
お母さんは机の上に開かれた教科書とノートをチラリと見ながらそう言うと、すぐに忙しそうに出て行った。
「わかった」
キッチンの方に早足で戻ったお母さんに、私の声は届かない。
ひとりごとみたいに響いた自分の声に苦笑いしながら、私は千円札を持って立ち上がった。
スーパーは歩いて行くには遠いけど、コンビニなら佐尾くんの住むマンションの少し先に一軒ある。
家を出た私は、そこを目指すことにした。