フツリアイな相合い傘
4.雨に消える慟哭
「ねぇ、西條さんの悪い噂知らない?」
女子トイレの手洗い場からそんな話し声が聞こえてきたのは、体育の授業後にトイレ前の廊下を通り過ぎようとしていたまさにそのときだった。
周りを憚る気配を全く感じられない、よく通るはっきりとした声が自分の名前を呼ぶのを聞いて、嫌な予感しかしないのに、つい立ち止まってしまう。
「西條さん?」
「そう、どんな些細な噂でもいいの。何か知らない?」
別の声の問いかけに、最初のよく通るはっきりとした声がそう答える。
「うーん。わかんないなー。そもそも、西條さんて噂とかされるタイプじゃなくない?地味すぎて。噂にすらなんないよ」
「まぁね」
聞こえてくる、ケラケラという笑い声。
そんな言われ方をして全く気にならないのかと言われれば嘘になる。
だけど、それほど胸は痛まない。